柴田精一は1984年香川県生まれ。4歳より神戸で育ち、京都精華大学で洋画、京都市立芸術大学大学院美術研究科で彫刻専攻を修了後、関西を拠点に活動。2017年からは活動の拠点を九州・福岡県に移し、新たな環境で活動を開始しました。本展では、新たな局面を迎える柴田の新作を展覧いたします。
異なる文様と鮮やかな色彩を施した紙を幾重にも重ね、色とかたちを繊細に響き合わせた「紋切重(もんきりかさね)」シリーズで作家としての道を切り開いた柴田。その後、平面から徐々に立体へと作品の形態を進展させ、現在では木を用いたレリーフ作品を中心に制作を続けています。
万華鏡を覗き込むかのような美しい幾何学的意匠から一転し、2011年~2015年ごろには人物や動物、風景を題材に、より複雑な具象表現に挑みました。その背景には、幼少期から制作そのものに魅力を感じてきた自身の「手仕事から作品を生みだす」というスタイルから「主題から作品を生む」というプロセスの転換を図るねらいがありました。かつて身近に起こった殺人事件を発端としたショッキングさや“悪”という抽象的なモチーフに絵画、木版、張子といった様々な技術で迫ることで、描き出す空間と表現の幅を広げた柴田。しかしその挑戦は、図らずも原点である「つくることそのもの」を探ろうとする自身の関心をより強固なものにしていきました。一度距離を置いたはずの「制作行為」に再び視線を移し、その工程を客観的に分析し、2016年には、現在にも通じる木と黄土を用いたレリーフ《無題》シリーズを発表。色彩を排し、壁面に居並ぶ様相はどこか木製の船首や民族的なマスクとの対峙をも想起させ、研ぎ澄まされた形の中に土着的な要素を携えはじめます。
そして現在、神戸から福岡への移住を期に、幼児の造形教育に携わることで新たな立場を得た柴田は、与えられたモチーフやテーマを離れ、思いのままに描く行為に没頭するこどもたちの姿に、一種の無意識的な衝動を見出すとともに、自身の創作との共通項を鑑みています。それは、初期衝動こそが原動力であるプリミティブアート(原始美術)に通じる普遍性であり、「つくることそのものを主題」とした柴田の原点回帰である新たな挑戦は、人間の創作の根幹に強く迫るものであると言えるでしょう。
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