木下佳通代(1939-1994)は、主に写真や絵画を媒体として、日本の戦後美術に鮮烈な印象を残した美術家です。木下の制作の背景には、関西において戦後20年にわたり台頭した具体美術、もの派、60年代からのハイレッド・センターやネオダダなどいった数々のグループの動向が挙げられます。木下自身も初個展の前後には神戸で結成されたグループ「位」と行動を共にしました。しかし、必ずしも彼らの追従を行ったわけではないことは、当時の芸術運動と女性作家の関わりを考える上では特筆すべき点です。
木下佳通代は1939年、兵庫県神戸市に生まれました。1973年頃から1980年頃には、ゼログラフィー(青焼き写真)と呼ばれる電子複写技術を使用して、人間の知覚のあり方を問い直す作品を制作しました。これらの作品は、図形を描いた紙を折ったり歪ませたりして変形させたものを撮影し、その上にさらに同じ線や円の平面的な図像を描いて制作されています。この特徴的な二重構造、つまり、三次元の像と二次元の像、デジタルとアナログとが重なり合うことで生じるのは、「存在」の確かさ、もしくは曖昧さを体現する視覚的・認識的なズレです。このズレは、「視る」者を「存在とは何か」という深遠なる問いへと誘い、私たちに「視る」という行為について考えさせます。木下の作品は「視る」ことに対する問いであり、それは「私」という存在が世界に対していかに関与しているかの確認作業であったとも言えます。
何かと別の何かを並べ相対的に物事を把握する認識の仕方では、「在る」という実存そのものは説明しきれず、自身の存在の根拠さえ稀薄になっていくと感じるようになった木下は、1982年頃からはその制作姿勢を引き継ぎつつ新たな絵画の仕事を始めました。木下の絵画における手の動きの軌跡がはっきりと伝わる筆触と色彩からは、身体性に基づく感性への強い関心が見受けられます。晩年の油彩作品では、絵の具を塗った後から布でこすり拭き取るという工程が加えられました。動きを重視した筆跡と拭き取った痕跡は、絵肌と展示空間が緊張し響きあう魅力的な空気を作品に与えました。絵具を塗る事と拭き取ることは、動きそのものとその行動を為す画家という存在の証明あるいは宣言でもありつつ、一方で画家の動きや作品存在の否定とも捉えることができます。この2つの動きは、作品という存在そのものを生み出すために必要な等しい価値を持った行為です。木下は相反する意味を持つようにも思える両者を、「存在」を生み出すために必要で、等しく価値を持つ痕跡として表現することに見事成功しています。
本展では、このように対象を視る自己が透明な「意識」=「眼」となることに最後まで憧れ続けた1人の美術家の姿をご紹介いたしました。主体と客体とのへだたりが消え去り、存在するものとそれを観察するものが一体となることに向かおうとする木下の力強い意志を「視る」ことは、認識と感性が揺さぶられる刺激的な体験となることでしょう。
【主な個展】
1966初個展 ウインナ画廊(神戸)
1972個展 ギャラリー16(京都)
1974個展 村松画廊(東京)1975、76、78、80、82、83
1981ドイツ・ハイデルベルクにて個展「木下佳通代1976-1980」
1991木下佳通代「実在と認識・・・そしてもうひとつのリアリティーへ」ギャラリー16(京都)
2016木下佳通代「存在に対するメッセージ」から「存在そのものの創造」へ ギャラリー島田(神戸)
2017「アートバーゼル香港」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
2017木下佳通代「もうひとつの実在」ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
2018「フリーズニューヨーク2018」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
2024「没後30年 木下佳通代」 大阪中之島美術館(大阪)
【主なグループ展】
1963「京都アンデパンダン展」に出品(-1985)
1977「第13回現代日本美術展」東京都美術館(東京)/京都市美術館(京都)
1983「現代美術における写真展-70年代の美術を中心にして-」東京国立近代美術館(東京)/京都国立近代美術館(京都)
1984「国際実験芸術展」Petofi Osarnok、ブタペスト(ハンガリー)
1989「自主的絵画としての写真・実験的構成1839-1989」ビイレフェルト・クンストハレ/ミュンヘン・ヴァイヤリッシュ・クンスト・アカデミー(ドイツ)
1997「〈私〉美術のすすめ-何故〈WATASHI〉は描かれたか」板橋区立美術館(東京)
2012「対話する美術/前衛の関西」/西宮市大谷記念美術館(兵庫)
2015「来るべき新しい世界のために:美術と写真における実験1968-1979」ヒューストン美術館(アメリカ)ジャパン・ソサイエティー、ニューヨーク大学グレーアートギャラリーに巡回
2018「アートフェア東京 2018」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
2019「台北Dangdai Art &Ideas」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
2019「奥田善巴・木下佳通代の相克」ギャラリー島田(神戸)
2020「CADAN:現代美術」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)寺田倉庫B&Cホール、東京、日本
2021「Metamorphosis and Evolution 変容と進化」emmy art+(東京)
2022GYFAショー part Ⅱ「戦後美術アーティスト-1970~2017」展 ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
2022「森の色」展 ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
2023「台北Dangdai Art &Ideas」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
【受賞歴】
1977「作品 77-D」兵庫県立美術館賞 受賞
【作者情報】
木下 佳通代
会期2017年06月17日(土) - 2017年07月08日(土) 休廊日 : 日・月曜日
開廊時間11:00 - 13:00 / 14:00 - 19:00 [最終日は17:00まで]
会場ギャラリーヤマキファインアート
所在地〒 650-0022 神戸市中央区元町通 3-9-5-2F
問合せTEL: 078-391-1666 FAX : 078-391-1667 MAIL: info@gyfa.co.jp
アクセスJR ・阪神 元町駅 西口より徒歩 1 分
料金無料