ギャラリーヤマキファインアートはこの度、戦後日本美術を代表する作家、福岡道雄の個展を開催します。神戸で初の個展となる本展では、これまで公開されることのなかった貴重な写真や彫刻等を含む作品群を通じて約50年間にわたる福岡の表現をご紹介いたします。
福岡道雄(1936−)は1950年代後半から大阪で創作活動を開始。60年代に日本を代表する現代美術評論家・中原佑介(1931-2011)キュレーションの展覧会「不在の部屋」(内科画廊、1963年)に出品するなど、従来の芸術規範に一石を投じた「反芸術」の旗手として脚光と称賛を浴びました。近年では、2014年横浜トリエンナーレで大きく取り上げられたことをはじめ、2017年に国立国際美術館で大規模回顧展が開催されるなど、ますます再評価の機運が高まっています。
本展のタイトルは、中原佑介による福岡の彫刻論の言葉に由来します。中原が鋭く見抜いていたように、福岡の作品に一貫していたのは、戦後日本の変動の渦のなかで生きることへの違和感であり、彼は生活と芸術行為との一体化を目指すことでその課題を乗り越えようとしました。
高度成長の光と影、激しい学生運動の最中で、政治に背を向け創作活動を続けることへの背徳感を感じながらも、彫刻の重量や垂直性といったこれまでの規範をくつがえした福岡の言葉の通り「反」芸術の試みは、時代を覆う希望と挫折感を象徴するかのような60年代の代表作「バルーン」シリーズ等に結実します。
そして70年代半ば以降、彼のコンセプトは社会の急激な変化への疲弊と歩を合わせるかのように、反骨の意思を誇示し続けることから離れはじめます。黒いFRPの直方体に作家の日常風景がユーモラスに配された「風景彫刻」は、それまで絵画という平面的な表現方法で繰り広げられることが一般的であった風景という主題を、立体によって模索した画期であり、美術史の大きな物語から離れ、より私的な視線を伴う“小さな物語”に立ち帰った他に類のない彫刻表現であると言えます。
このシリーズは、次第に波を表面に表した彫刻の触覚性を問うミニマルな表現を見せはじめ、90年代には、「何もすることがない」などの言葉が一面を埋め尽くすコンセプチュアルなレリーフ作品へと展開されていきます。ついには、2005年に反復する言葉に繋がるように「つくらない彫刻家」を宣言。社会の変化を肌に感じつつ、芸術家が作品をつくるという行為に鋭い問題提起をした福岡は、自己と社会、そして美術史への諧謔的な眼差しを向けながら、芸術を日常の行為へと還元しました。
やがて7年ぶりの制作として2012年に《つぶ》を発表。“はからずも”作家の指の感触のみから生じた本作は、福岡の等身大の“ポートレイト”であると同時に、「生きること/つくること」が福岡の中で一体化したことの象徴とも言えるでしょう。
時代の閉塞した空気は、福岡の目に世界を「黒一色」に見せる一方で、「反」を繰り返すその姿勢は、私生活に溶け込むまでに徹底されることで美術史の制約を乗り越える力となりました。イズムや~派(スクール)で語ることが困難な現代の美術を予見していたかのような福岡。“アンチ美術史”の重要な参照項として歴史的評価が期待される作家の創作活動を振り返る重要な機会として、本個展をぜひご高覧いただけますと幸いです。
【主な個展】
2022「福岡道雄 展「ニッコリ笑っていきましょう」」ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
2018「福岡道雄 展「黒一色の景観から」」ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
2017「福岡道雄 つくらない彫刻家」国立国際美術館(大阪)
2016「ことばと文字─つくらない彫刻家のその後」ギャラリーほそかわ(大阪)
2013「個展-僕の顔」ギャラリーほそかわ(大阪)
2008「兆 福岡道雄 '70年代から'80年代」信濃橋画廊(大阪)
2008「福岡道雄 水の表情」滋賀県立近代美術館(滋賀)
2005「福岡道雄 腐ったきんたま」信濃橋画廊(大阪)
2005「福岡道雄 笑うミミズ 怒る蚯蚓」アートスペース虹(京都)
2001個展「何もすることがない」 INAXギャラリー(東京)
2000福岡道雄新作展「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」伊丹市立美術館(兵庫)
1979「福岡道雄の世界」大阪府民ギャラリー(大阪)
1958「福岡道雄彫刻個展」白鳳画廊(大阪)
【主なグループ展】
2024グループ展「レリーフ彫刻から立体表現」(ギャラリヤマキファインアート、神戸)
2023「台北當代2023」 ギャラリーヤマキファインアートブース(台北)
2023コレクション展「概念-もの-環境」(ギャラリヤマキファインアート、神戸)
2022「ACK(Art Collaboration Kyoto)」ギャラリーヤマキファインアートブース(京都)
2022「西宮市大谷記念美術館 開館50周年記念 特別展 Back to 1972 50年前の現代美術へ」 西宮大谷記念美術館(兵庫)
2022「MOTコレクションコレクションを巻き戻す 2nd」東京都現代美術館 (東京)
2022「コレクション2:つなぐいのち」国立国際美術館(大阪)
2019「アートバーゼル香港2019」(ブース:ギャラリーヤマキファインアート)
2014「ヨコハマトリエンナーレ2014」(横浜美術館、神奈川)
2013「埼玉県立近代美術館代コレクション展」埼玉県立近代美術館(埼玉)
2012「言葉と美術が繋ぐもの-中原佑介へのオマージュ」ギャラリーヤマキファインアート(神戸)
1997「国立国際美術館の20年」国立国際美術館(大阪)
1996「日本の美術・よみがえる1964」 東京都現代美術館(東京)
1993「昨日・きょう・明日12 木村光佑・福岡道雄 展」 京都市美術館(京都)
1991「芸術と日常―反芸術 / 汎芸術」国立国際美術館(大阪)
1991「現代日本美術の動勢―立体造形展」富山県立近代美術館(富山)
1986「現代美術の白と黒」埼玉県立近代美術館(埼玉)
1985「彫刻の4人展 清水九兵衛 山口牧生 森口宏一 福岡道雄」和歌山県立近代美術館(和歌山)
1981「第16回サンパウロ・ビエンナーレ展」サンパウロ現代美術館(ブラジル)
1980アジア美術展第2部「アジア現代美術展」
1975「第2回彫刻の森美術館大賞展」箱根彫刻の森美術館(神奈川)
1972「ヴェスビオ大作戦プロジェクト展」南画廊(東京) / イル・チェントロ画廊(ナポリ)
1972「現代美術の鳥瞰展」京都国立近代美術館(京都)
1970「第2回神戸須磨離宮公園現代彫刻展」神戸緑化協会賞 須磨離宮公園(兵庫)
1969「現代世界美術・東と西の対話」東京国立近代美術館(東京)
1968「蛍光菊・現代日本美術展」I.C.A. ロンドン、ロンドン
1967「第2回現代日本彫刻展」宇部市野外彫刻美術館(宇部市)K氏賞
1966「現代美術の新世代展」東京国立近代美術館(東京)
1964「現代美術の動向展」国立近代美術館京都分館(京都)
1963「不在の部屋」展 中原佑介企画 内科画廊(東京)
1963「山口勝弘 多田美波 福岡道雄 共同発表展」新宿第一画廊(東京)
【作者情報】
福岡道雄
会期2018年11月17日(土) - 2018年12月22日(土) 休廊日 : 日・月曜日
開廊時間11:00 - 13:00 / 14:00 - 19:00 [最終日は17:00まで]
会場ギャラリーヤマキファインアート
所在地〒 650-0022 神戸市中央区元町通 3-9-5-2F
問合せTEL: 078-391-1666 FAX : 078-391-1667 MAIL: info@gyfa.co.jp
アクセスJR ・阪神 元町駅 西口より徒歩 1 分
料金無料