1943年大阪生まれ。京都教育大学特修美術科彫塑に在学中から京都アンデパンダン展で発表を行い、ガラスを斜めに立てかけたように見える綿布を用いた《無題》(1969年)などで注目を集めた。1970年には、戦後美術史上画期となる「第10回日本国際美術展 人間と物質」(コミッショナー:中原佑介/東京都美術館、1970年)に出品。60年代末から70年代はじめにかけて制作した作品は、針金を結び合わせてキューブの連続体を作った立体作品や、巨大なハトロン紙をテープで壁面に貼った作品などで、欧米を中心に同時代に興隆したミニマル・アートに対する批評性を見出すこともできよう。その他、「第8回パリ青年ビエンナーレ」(1973年)に参加するなど、同時代の「もの派」と肩を並べる意義深い動向のひとつとして、狗巻の作品は歴史的に重要視されている。70年代半ばからは、方眼紙の方形を色鉛筆で塗り分けた作品や、墨壷を用いてグリッドを描いた作品、塗り分けた色面の狭い隙間の余白で線を表現した作品など、主な創作の場を平面に移したが、基本となる構造を空間や平面の中に配置するという制作方法は、晩年の作品まで発展的に継続して見られる。また、90年頃から狗巻の代名詞ともいえる「白い作品」のシリーズに着手。カンヴァスに白色の絵具を塗り、その上から釘で線状のひっかきを施し、さらに絵具を何度も厚く塗り重ねた作品で、壊れそうなほどに繊細ながらも、力強い物質感を放つ独創的な線が表現されている。狗巻は“作品を作る”という意図を排除し、創作を単純な行為の繰り返しに還元することによって、絵画という価値観を否定しながら平面に表現の新たな可能性を探った。2023年、惜しまれつつも京都で逝去。
これまでの主な個展に、「狗巻賢二個展」(ギャラリー16、1969年)、「狗巻賢二展」(信濃橋画廊、1973年)、「狗巻賢二展」(松村画廊、1974年)、「狗巻賢二展」(1979年)、「狗巻賢二展 いろどる」(INAXギャラリー大阪、1987年)、「狗巻賢二の仕事」(京都市美術館、1996年)、「狗巻賢二展-痕跡として形を成す―」(INAXギャラリー2、1996年)、「狗巻賢二展 STUDY UMBER…。」がある。また、主なグループ展には、「第1回現代国際彫刻展」(箱根彫刻の森美術館、1969年)、「現代美術の動向」(京都国立近代美術館、1969年)、「第10回日本国際美術展 人間と物質」(東京都美術館・京都市美術館・愛知県美術館、1970年)、「現代美術の一断面」(東京国立近代美術館1970年)、「第7回パリ青年ビエンナーレ」(パルク・フローラル、1973年)、「第4回現代日本彫刻展」(宇部野外彫刻美術館、1971年)、「すっかりだめな僕たち展」(京都市美術館・京都書院ホール、1971年)、「京都ビエンナーレ」(京都市美術館、1972年)、「日本-伝統と現代」(デュッセルドルフ市立美術館、1974)、「日本現代美術展 70年代にほんの美術の動向」(韓国文化藝術振興院美術館、1981年)、「日本現代美術展 5人の日本現代作家達」(デュッセルドルフ市立美術館、1983年)、「1970年-物質と知覚 もの派と根源を問う作家たち」(埼玉県立近代美術館ほか巡回、1995年)、「もの派-再考」(国立国際美術館、2005年)、「言葉と美術が繋ぐもの-中原佑介へのオマージュ」(ギャラリーヤマキファインアート、2012年)、「枠と波」(豊田市美術館、2023年)がある。
作品は、東京国立近代美術館、国立国際美術館、埼玉県立近代美術館、豊田市美術館、京都市美術館、高松市美術館、いわき市立美術館、宇部市など、国内の主要な美術館に収蔵されている。
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