展覧会

コレクション展「Joerg LEHMANN & LEE Min-ho 展」

2019年07月27日(土) - 2019年08月23日(金)

 

《nocturne 9》
ヨルグ・レーマン《nocturne 9》2007年 28×42cm デジタルプリント

 

 この度ギャラリーヤマキファインアートでは、いずれも写真を媒体に活動を行うヨルグ・レーマン(1960-)とリ・ミンホ(1959-)の作品を紹介します。一見相反する手法を用いる2人の作品は、それぞれ独自の写真表現によって意識的に「リアリティ」の問題を扱う点で共通しています。それは、写真のもつリアリティの曖昧さへの単なる問いかけには留まりません。両者とも、題材として伝統的な「神話」的モチーフを取り上げ、その歴史的物語を再編し、現代の私達の「リアル」な物語を映し出します。

 ヨルグ・レーマンは彫刻を題材に、フラッシュを用いず実際の光量のみで撮影を行います。ドラマチックな構図をもつレーマンの写真は、彫刻それぞれの顔や身体的表情の機微を、まるで生身のモデルであるかのように捉えます。このレーマンの表現は、被写体の内面や行動といった別種の物語の存在を私達に錯覚させ、歴史的な彫刻の文脈を現代的なイメージに転換する役目を果たします。また、この動かない被写体の物語にこだわるからこそ、彼の作品の構図や色調はいっそう計算高く練り上げられ、絵画的な完成度にまで達します。実際の光量という「現実」を利用しつつ全体を徹底的にコントロールすることで実現された写真のリアルとアンリアルが交錯しあう複雑な画面は、写真家として熟達した腕を持つレーマンならでは表現だと言えるでしょう。

 一方のミンホは近作において、「糸」を主人公とした絵画的な写真作品を制作します。糸のモチーフはギリシャ神話におけるアリアドネーの物語からインスピレーションを得たものですが、彼女の糸玉は神話の伝統的イメージから離れ、合成と編集によって何重にも合成された自然の風景や建物の内部に、どこかぎこちなく配置されます。私たちはどこから来てどこへ向かっていくのか、超現実的なイメージの迷宮をさまようアリアドネ−の糸玉は、広告の氾濫やネットサーフィンに親しんだ私たち自身のリアルを暗示します。画像の自在な操作が可能になった時代にこそ生まれ得たミンホのシュルレアリズムは、現代におけるリアリティの問題を二重の形で作品上に色濃く表現しています。写真は豊かな視覚的表現の場でありながら、「現実」を取り扱う言語的媒体でもあるという二面性によって、多くのアーティストの探究の場として様々な挑戦的な表現を生んできました。一見すると違う両者の表現は、よく見るとその根底に流れる彼らの思想の共通点を感じ取ることができるでしょう。同時に、今後の表現の可能性についてこの機会にぜひご高覧頂けますと幸いです。